インタビュー記事を書いていただきました

代表蒔田の知人であり「死の対話」などの場を開催してきた尊敬する熟練ファシリテーター、佐々木薫さんがご自身のサイトに載せるためにインタビュー記事を書いてくださいました。

さすがのファシリテーション(促進する)の技で深い共感と理解をもって聴いてくださったおかげで、訪問看護ステーションの開設に至った思い、グリーフケアやスピリチュアルケアを受ける権利を全ての人に拡げたい思いなどが表現することができました。

快く記事のシェアを許してくださったので、ぜひご一読ください。

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コミュニティーに「いのち」を取り戻す


「最近、とても嬉しい出来事があったんです!」

インタビューの最初に、蒔田あゆみさんは声を弾ませてそう言った。

尊敬する静岡大学の竹之内裕文教授(哲学・倫理学・死生学)に、日本緩和医療学会東北支部学術集会で「死生を支えあうコミュニティをデザインする 手がかりとしての対話とコンパッション」というテーマの特別講演の後の座談会に、ゲストスピーカーとして招かれたのだ。

「最初は”私なんかにできるのだろうか?”と思いましたが、引き受けることにしました」

看護師のあゆみさんは、一年半前に会社を設立して、2021年8月から訪問看護ステーションの活動を開始した。訪問看護ステーションの数は国によって異なるが、日本ではまだニーズに比べて不足している。

あゆみさんは看護学校在学中の19歳の時に母を見送り、「立派な看護師になってね」という母の言葉通り、「できる看護師」を目指した。大学病院を経て日本初の独立型ホスピスで、緩和ケアやグリーフケアに携わった。その際にチャプレンの存在を知り、「私がやりたいのは、これだった!」と気づいた。「体と心はつながっている」「死を前にして恐れている人々と時間を共有したい」そう強く思った。そして紆余曲折を経た後に、上智大学グリーフケア研究所の2年間のコースを受講し、「喪失に伴う悲嘆のケア」の専門家である認定臨床傾聴士となった。

コースに在籍中、父の容態が急変した。心筋梗塞で手術を繰り返す父を前に、悲しみに押し潰されそうになる家族にナースとして状況を「翻訳」し、みんなの気持ちを聴き、全員の方針が「なんとなくまとまった」という。その体験から、その後「対話」を重要視するようになったのだろう。

あゆみさんが今でも目指しているゴールの一つが、「後悔のない看取り」だ。父は倒れてから一ヶ月、「話をする時間」「家族にケアさせてあげる時間」をくれたと考えている。

最終的に父から「もう薬は飲まない」というメッセージが届いた。その時に「飲まなくていいよ」と伝えたことが、自分にとって大きな出来事だった。父は「ありがとう」と返事をして、間もなく旅立った。

これを薄情な娘だと思う人もいるだろう。しかし私自身常々、死の瞬間は、本人の最後の大きな決断であり、「行かないで」「◯◯さんがいなくなったら私はどうしたらいいの?」と本人に逝くことを「禁止する」ことは疑問視している。「自分の納得のいくように、自分のタイミングで決めてね」という方が、レスペクトがあると感じるのだ。

「グリーフケアは死別の前から」というのが、あゆみさんの考え方だ。「去りゆく大切な存在に、どうやって後悔なく関われるか?」が問われると語る。

あゆみさんの訪問看護ステーションのキャッチコピーの候補の一つは、「この街には、あなたの弱さが必要です」というものだ。弱さはweaknessではなく、あゆみさんはvulnerabilityという言葉を使う。ナース、認知症の利用者さん、障害者は全ての人がケアする機会を与えてくれる。ケアされる側の人も、ケアする人にギフトをもたらしてくれているのだ。

あゆみさんは「死が医療のものになってしまった」と捉えており、「死生を人々が支えるコミュニティ」を取り戻す、または創造することを目指している。あゆみさんは「対話する訪問看護ステーション」を運営しているが、そうしたこれまで主催してきたデスカフェなどの対話の場で、生きている実感を感じづらい若者に出会ってきた。あゆみさんは「死の前でこそ、生きている実感は強く感じられる」と考えているため、看取りと若者を繋ぎ、市民と看取られる人々が支え合う社会を目指している。これはcompassionate communityと呼ばれる概念で、どちらも苦しんでいる一方で輝く存在であり、互いにメリットがあると考えられている。

現在の利用者さんは終末期の患者さんに限らず子供や障害者も含まれる。が、誰が対象であっても、「全人的」であることはいつもあゆみさんの心の中心にある。これはWHOが健康の定義として提唱している概念で、人間は1. 身体的存在 2. 精神的存在 3. 社会的存在4. スピリチュアルな存在であり、そのどれもが欠けてはいけないという考え方だ。それは利用者さんだけでなく、自らの組織やスタッフにも当てはまる。すべての人がwhole(全人的に)関われる事業を目指している。

父が亡くなってからあゆみさんが気がついたことは「時期によっては、人間はとても弱々しい存在として存在していいのだ」ということだった。母の死の時には「がんばってるもん」「できるもん」と自分の心を閉ざし「助けて」と言えなかった自分が、大きく変わったと語る。

それから彼女は、経営者になったり学会での話者の機会を引き受けたりと、「やってみたことのないようなことを、やるようになった」と言う。そうした彼女の心の変化と成長が、日本でも非常に新しい取り組みとして広がっていくことだろう。


文 :佐々木薫   写真:田上浩一

対話する訪問看護ステーション

目黒区自由が丘の訪問看護ステーションです。

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